おはようございます。
大阪の街が変わろうとしています。
大阪・西成あいりん地区に起こった劇的変化…海外バックパッカーたちを魅了する「納得の理由」
大阪のインバウンドを語るうえで欠かせない、もうひとつのユニークなエリアがある。
JR大阪環状線の新今宮駅を降りると、大通りをはさんで住人と街の雰囲気が一変する地区がある。
そこは東京の山谷と並び称される日雇い労働者の街、西成あいりん地区だ。
その一画に外国客をメイン顧客とするゲストハウスが密集するエリアがある。
地下鉄御堂筋線の動物園前駅からだと徒歩30秒という便利な場所にである。
その西成ゲストハウス街に「ホテル東洋」という斬新な宿がある。
何が斬新かというと、外国人ゲストたちが描いたグラフティで、館内の廊下や階段などあらゆる壁面が埋め尽くされていることだ。
宿泊客の9割が外国人で、うち7割は欧米人だという。
この宿の構造は、玄関からまっすぐ狭い廊下が延び、両脇に個室が並んでいる。
その光景はかつての簡易宿泊所そのものだ。その味気ない空間が外国人ゲストたちの想像力豊かなセンスで生まれ変わったのである。
1階にゲストの共同の団欒スペースで「コモンルーム」と呼ばれる畳敷きの一室があり、こたつが置かれ、奥には自炊のできるキッチンもあるのだが、その部屋の壁中ゲストの落書きやメッセージがぎっしり書かれている。
なぜこんな宿になったのか。ホテル東洋オーナーの浅田裕広さんはこう話す。
「もともとこの宿は祖母が経営していた簡易宿泊所で、2000年頃、私はそれを引き継ぐことになったのですが、当時は施設も老朽化し、日雇い労働者の人たちも減っていたので、閑散としていました。
2003年に近隣の簡易宿泊所の組合の若いオーナーたちと、これからは観光客を相手にしようという話になりました。
まずやったのは、トイレを洋式にし、シャワーを設置したことです。
そして、ホステルワールドのような海外の宿泊サイトに登録しました。
すると、少しずつ予約が入り、外国客が訪れるようになりました。
最初は欧州やオーストラリアの若い人たちでした。
彼らはたいてい2週間くらい宿泊します。ここを拠点に関西の観光地を訪ね回るようです。
うちのスタッフは海外でバックパッカーとして旅した経験のあるような若い人たちなので、なんとかこの宿のイメージを変えようと、最初は自分たちで壁を明るい色に塗り替えることを始めました。
というのも、トリップアドバイザーに『まるで刑務所のようだ』というようなコメントがあったからで、コストをかけずにできることを始めようと思ったのです。
ある日、その様子を見た20代前半のフランス人の男性が、自分に絵を描かせてほしいと言ってきました。
彼は1週間ほど滞在して、描いてくれました。そのぶん、宿代は免除という条件で。 その後、ゲストに館内のグラフティを描かせてもらえる宿としてSNSなどを通じて海外に広まったのか、自分も描きたいと連絡してくる外国人が次々と現れるようになったんです」 顧客を日雇い労働者から観光客に変えよう。
そうした若いオーナーたちの発想の転換が、21世以降のインバウンドの時代にハマったことが、現在の西成ゲストハウス街の原点だった。
観光庁による最新の宿泊旅行統計(2023年12月26日)には、都道府県別宿泊施設タイプ別の客室稼働率(2023年10月)という統計がある。そこでいうタイプ別とは「旅館」「リゾートホテル」「ビジネスホテル」「シティホテル」「簡易宿所」なのだが、このうち全国で簡易宿所の客室稼働率がトップなのは大阪の49.7%で、全国平均の25.7%の2倍近い。西成ゲストハウス街はこの稼働率に貢献していることが考えられる。
外国人が集う大衆食堂
あいりん地区にある「大寅食堂」の豚汁定食(500円)。外国人ツーリストも利用する
ところで、西成ゲストハウス街の立地がさらにユニークだ。
このエリアは、東西を堺筋、南北を御堂筋線の通っている通りで十字に切り分けると、東南部に位置している。
そこから堺筋を挟んだ西南部は日雇い労働者街、またそこから環状線をはさんだ西北部は、2022年4月にオープンした星野リゾートOMO7大阪。
そして、東北部はジャンジャン横丁や新世界のある歓楽街が広がっているからだ。どこに行くのも徒歩3分圏内である。
実をいえば、今回筆者はホテル東洋に宿泊していたのだが、早朝、若い外国人ゲストたちが朝食を自炊する姿を横目に、あいりん地区を散策した。まだ人出の少ない時間帯だったが、炊き出しをする店も何軒か見た。
そこで見つけたのが、「大寅食堂」という大衆食堂だった。
店に入ると、日雇い労働者と思われる人たちがビールを飲みながらつまみをつついていたが、筆者も朝の定食をいただいた。
なんでも外国客もよく来るそうで、その日は台湾から来たふたり組の男性と相席した。
さて、食後のコーヒーはということで、大阪環状線のガードレールをくぐり抜けた先にある星野リゾートを訪ねた。1階の朝食スペースは宿泊客でにぎわっていた。
外国客も多いが、日本人の家族連れも多かった。
目次